ゆみはりの

弓張の月にはずれて見し影の やさしかりしはいつか忘れん

繋がり合う縁を胸に/劇団壱劇屋 五彩の神楽『賊義賊』感想

公演概要

note.com

この町には"義賊"がいる。 悪から奪い、貧しい者に分け与える。
義賊の名はコウ。この物語の主人公。 ひとたび彼女が姿を見せれば、あちらこちらから歓声が湧き上がる。 今日こそは御縄にしてやると息巻く同心たちの追跡を掻い潜り、日夜町中を飛び回る。
時を同じくして、町⺠たちの間でとある噂がまことしやかに囁かれていた。
この町には"賊"がいる。 闇夜に紛れ現れては、命を奪い去るという…
義賊と賊が出会う時、時を止めていた因縁が動き出す。 それはやがて町全体を巻き込む大騒動へと発展していく。
これは義賊の物語。 最強の女賊、⺠衆の前に推参。

https://t.pia.jp/pia/events/ichigekiya

公演日程

キャスト・スタッフ

  • 出演:小玉百夏、伊藤今人、日置翼、谷口洋行、浦谷賢充、竹村晋太朗、藤島望、石川耀大、淡海優、岡村圭輔、小林嵩平、柏木明日香、西分綾香、丹羽愛美、今中美里、八上紘 、奥住直也、佐竹正充 、鈴木亮吾、西岡亜衣
  • 作・演出・殺陣:竹村晋太朗(劇団壱劇屋)
  • 衣装デザイン:車杏里

公演感想

※ネタバレを含む内容になります。ご注意ください。

ポップでキュートでホイップ!

『憫笑姫』とはまったく違ったベクトルです!という謳い文句通り、開幕からコミカルでダンサブルな滑り出し。リバーシブルになっている羽織を裏返し、一瞬で町人から岡っ引きへとキャラチェンジを行うアクションモブの皆さん、匠の技が光っていました。
ストーリーも愉快痛快、明朗快活。小玉さん演じるコウ(黄)の弾ける笑顔は、まるでクリームソーダのよう。とってもキュートでとっても強いのに、ご機嫌ななめでゴリラになっちゃう。くるくるとめまぐるしく変わる表情は、観ていて飽きません。
衣装もかわいくて、だけどちょっぴりセクシー。ガーターベルトっていいものですね……。

谷口さん演じる同心との、トムとジェリーのような、もしくはルパンと銭形警部のような、お約束コミコミの追いかけっこも見どころ。
コウが岡っ引きに変装しているシーンを演じる小林さん&今中さんお二方もすごい。ちゃんと「中に入っている」感がある。ワードレスでこれができるのは、努力と実力があってのことだと思います。劇団員の誰もが主役を張れる壱劇屋の強さ。

前回主演だった西分さんもアクションモブとして出演。相変わらず殺陣はキレッキレだし、カーテンコールではマシンガントークでした。好き。

削ぎ落としの美学

導入部でだいたいの人間関係をするっと把握させたその後で、もうひとりの賊・クロ(黑)との邂逅によって動き出す物語。
コウが不殺を貫く理由が、差し挟まれる回想によって少しずつあらわになっていくのですが。この過去の表現もいいんですよ。小道具と衣装の変化でここから過去ですよ〜とスムーズに理解させてくれる。
しかも、キャストが舞台から消える瞬間を極力減らしている。場面転換の「間」が少ないので、物語に没入しやすいんです。

今人さん演じる頭領の不気味さ、圧倒的な強さも最低限の動きで伝わるようになっている。台詞がない分、観客が物語を理解するためのコストとストレスとをギリギリまで減らそうとしているのが伝わってきます。
これが、およそ90分間の舞台に集中できる理由の一つなのかな、と感じました。
休憩を挟むような長時間の舞台を否定するわけではありませんが、観劇していると集中力が途切れることが時折あるんですよね。それは暗転のときだったり、シーンの合間のブリッジになるような箇所だったりするわけで。密度の高い舞台ほど作品世界に入り込みやすく、満足度が高いのだと思います。

言葉はなくとも人情噺なんです

ポップでキュートでホイップで、というと終始楽しい娯楽作品だと思うじゃないですか。わたしもそう思っていました、観るまでは。
……完全にやられました。いい意味で裏切られすぎました。まさかこんなにも泣かせに来るとは思わなかった。

竹村さん演じる師匠と、コウと、そしてクロの三人で過ごした懐かしくあたたかい過去。
それが頭領たちの策略によって壊され、師匠は非業の死を遂げる。二つに分かれてしまったコウとクロの道。一方は不殺の義賊として、もう一方は非情な賊として、生きていた。
しかし、二人の目指す道は、実は重なっていて――。

不器用な彼らを見守るもうひとりの存在とその思いとが、終盤になって明かされる展開も最の高。
「賊」「義」「賊」と掲げられるフラッグに、「そういうことだったのか〜!!!」と大の字になっちゃいました。
同心、最初は巨大すぎる十手や、プロペラになる十手などおもしろ道具のせいでネタ要員かと思いきや、めちゃくちゃイケオジだった件。
ぼかぁね、若者を見守るちょっと枯れたおじさんが、大好きなんだよ。

師匠(まぼろしのすがた)がコウとクロに力を貸してくれるシーンもニチアサ好きにはたまらない。こういうの、知ってる!観たことある!って進研ゼミ状態。
大人のシアターGロッソが、池袋にあったんだ……。

舞台表現の限界に挑戦し続ける

「人間CG」と呼ばれる演出も冴えに冴え渡っていました。
赤い花びらを手動で(!)散らせることで表現される「血」、そして「死」の概念。美しすぎる。まさに匠、匠のまさ。

そして鳥肌が立ったのが、無実の罪で捕らえられた顔役・玄人の背中に師匠の幻影が重なる瞬間。
これを、舞台でやろうとするのがすごい。映像なら別撮りを重ねるところを、賊義賊では舞台上の人間の立ち位置と動きで表しているのです。
文章で説明しきれないのがもどかしい。もう、観に来て!としか言えない。おうちで観られる配信や何度でも繰り返せるDVDもいいけど、生の舞台の良さをこれでもかと感じさせてくれるのです。たとえライブ配信があっても劇場に行ってしまうだろうなあ、と思わせてくれる強さ。

カーテンコールで全力で拍手できる舞台を観たいなら、ぜひ。

ちなみにわたし、「推しが出ているわけではないし、一回行ければいいかな〜」って思っていたんですが、まんまともう1公演おかわりしてしまいました。「座席を埋めたい」とか「推しが観たい」いう感情ではなく、純粋にもう一度観たい、って思えるからの多ステなんです。次の公演も、当然追加購入。学習した!

撃ち抜かれたい

『憫笑姫』に続いて『賊義賊』も、敵役が魅力的。
今人さんの災厄としか思えない強さもさることながら、「え、まさか」からの「やっぱり〜!?」となった裏切りの妻・藤島さんが素敵すぎました。
あんなに夫と仲睦まじく歩いていたじゃん……二人の歩きマイム最高だったじゃん……ねえ、どうして? と思いつつも、その妖艶な眼差しに射抜かれてしまい。「この妻になら撃たれてもいい、むしろ撃ち抜かれたいオブ・ザ・イヤー」をわたしの中で見事獲得されました。ええ、わたしの中で。

バリバリにかっこよかった日置さんのクロといい、ふんわりとひんやりの二面性を演じた藤島さんの妻といい、素の演者さんたちとのギャップを存分に味わえて最高でした。
裏切られてもなお、最後の最後まで妻を愛し抜こうとした淡海さんの玄人も良かったし、さらっと妻を投げ倒して実は強いことを見せつけた石川さんの鼠も愛すべきキャラだし、瓦版屋さんの浦谷さんのお調子者感もかわいかったし、もうみんな好きになっちゃう。嬉しい悲鳴。

というわけでさらに壱劇屋東京支部箱推しになったし、客演のみなさまも応援したくなったし、で満足度120%の『賊義賊』でした!

感想を仕上げるのが遅くなってしまい、実は一昨日からすでに次の公演が始まっています。
五ヶ月連続公演、演者はもちろん、観客側も慌ただしい。あっという間に一ヶ月経ってしまう。
搬出&オンライン打ち上げの翌日から次の稽古が始まるって、物凄いスケジュール。兎にも角にも無事に走り抜けてほしい。わたしも一緒に走ります。

第三弾『心踏音』は10月25日まで。今度は盲目の男と、言葉を持たない女の愛の物語。
まだまだチケットは購入できますし、当日券も出るので、興味を持たれた方はぜひ劇場へ!
『心踏音』チケット販売ページ(チケットぴあ)