ゆみはりの

弓張の月にはずれて見し影の やさしかりしはいつか忘れん

言葉がなくとも届く想いがここに/劇団壱劇屋 五彩の神楽『憫笑姫』感想その2

感想その1はこちら。
yumiharino.hateblo.jp
今回は、キャスト別の感想を中心に。
なお、掲載している写真はすべて、撮影可のアフターイベントでわたしが撮ったものです。壱劇屋さん、福利厚生がすごい。

『憫笑姫』キャスト別感想

ビアンカ・ハーン:桜町たろさん

女官その1。
登場時の体温低そうな感じも好きなんですけど、強くなってからの立ち回りが美しく、かつ豪快で素敵。
「おねえさま!」と呼びたくなる色気と包容力。
最終決戦の際、ビアンカがミラを気遣う様子を観て「ああ、ミラはもう『お姉ちゃん』でいつづけなくてもよくなったんだな」と思えてぶわっときました。
当初の設定では「マイペースなまとめ役」ということでしたが、公募でビアンカという名前がつけられてから演技プランを変更したとのこと。たろさんが作り上げられたビアンカおねえさまがわたしは大好きです。抱きしめられたい。

アメリア・ボールドウィン:柏木明日香さん

女官その2。
「物知りの小心者」。おどおどとした仕草と、ふわふわもふもふの髪の毛、そばかすにメガネ。この子があんなにも正統派の剣を振るうなんて!
でも物知りだもんね、教本やら何やら読んで、イメージを人一倍膨らませたがゆえのあの殺陣なんだろうな、と。姿勢も所作もきれい。
黒執事』のオタクはみんなアメリアが好き、という感想も見かけましたが、わかる、わかりすぎる。
柏木さんは「目が死んでいるのがチャームポイント」と自称しているけれど、屈託のない笑顔がめちゃくちゃかわいいの。憫笑姫、ギャップ萌えの宝庫でした……。

バルトチロン・プッコ:黒田ひとみさん

女官その3。
「短気で負けず嫌い」。短気感はそんなに感じなかったけどな?と思ったけど、あれだ。剣を使うのがまどろっこしくて拳で解決しようとするところだ! 後半に繰り出すアッパーカット、キレッキレでした。
そして、横移動の速度が半端ない。あっという間にステージを駆け抜けていくので、アフターイベントですら残像しか撮れていないことが多数。ポテンシャルが高すぎる。これで、素の黒ちゃんさんはぽわぽわの赤ちゃんみたいな方なのでたまらない。チェキも買いました。
今回が初めての役付きということで、これからの活躍がとても楽しみです。
そして、我らが王様と側近のオフショットを多数Twitterにアップしてくれたので足を向けて寝られません。女神です。

ケイレブ・カーク:竹村晋太朗さん

みんなの団長! 舐めプからの本気がかっこよかった。部下を使って一騎打ちを避ける中ボスに嫌そうな表情を浮かべるのも印象的で。
最初は「強い奴と戦うことが楽しい」というバーサーカーみを醸し出していたのだけれど、ミラたちの面倒をみるようになって少しずつ変わっていくのを感じました。
お披露目殺陣と呼ばれるシーン、旗を振り上げてミラの登場を演出する団長の「俺が育てた自信の弟子です(ドヤァ」って顔が大好きです。
守るべきものを見つけて変化してゆく年長者と、その強さに追いつくべく日々懸命に努力する年少者っていう関係性に弱いんですよ、ぼかぁ。師弟って……いいよね!
そして、こんなにも素敵な物語を作って演出して、殺陣までつけて自分も演じて、って何役もこなしている竹村さんは本当にすごいなって思うし、芝居が好きなんだなあってしみじみ思いました。アフターイベントの男子会、芝居好きが集まりすぎて真面目なトークになってましたもんね。そこからちゃんとかわいいエピソードへ持っていくバランス感覚もある。すごい。奥様も素敵。なにわ夫婦推せる。

ミラ・フローレス:西分綾香さん

みんなのお姉ちゃん!
ミラは一人で色々なものを背負い過ぎていて、途中見ていて痛々しいほどでした。
西分さんの表情が多彩で、その時々の感情がダイレクトに伝わってくるから、痛みを感じつつも目を逸らすことはできなくて。
無理やり渡された剣が訓練とともに手に馴染み、重さを感じさせなくなる過程が手に取るようにわかる表現力。拳を握りしめて応援したくなるひたむきさ。
強くなったミラが放つ気品は「上に立つ者の風格」という趣きでかっこよかったです。

でも、同時に悲しくも感じて。ふつうの町娘として生きる幸せは永遠に失われてしまったんだなあと思うと、切ない。マジ王様絶許。
そして、あれだけの大立ち回りを演じたあとに、カテコであれだけ喋れるの本当に凄い。初日なんて、西分さんのトークを見ながら牧田さんは「すごいな〜」って素で言ってたし、熊倉さんはマシンガンぶっぱなしてたし。

エラ・フローレス:三田麻央さん

は、は、初殺陣!?
後から知ってびっくりしました。あんなに気合いの入った立ち回りをする方が初心者だったなんて……。
序盤のふんわりとしたかわいらしさから、終盤に近づくにつれて凛々しく、かっこよくなっていく様子がとても良かった。自分の弱さに苛立ち、強くなるために覚悟を決めたあとの瞳の強さが印象的。
がむしゃらで、一生懸命で、頑張り屋さんで。大千穐楽、カテコで顔を見た瞬間もらい泣きしてしまいました。きっと、色々大変だったんだろうなあと思いを巡らせてしまい、泣いて拍手をするしかできなかった。みたまおちゃんも、エラも、大好きになりました。

並みのオタクたちよりオタクなところも好きすぎる。
明らかに、「こっち側」の語彙。演者自ら二次創作しちゃうパッション、推すしかない。

モールド・クロウ:熊倉功さん

銀髪にメカクレ、色気のある仕草に挑発的な笑み、そして長い手足から繰り出される高速の剣。こんなのみんな好きじゃん。好きを詰め込んだ性癖よくばりセットじゃん。色々な意味で最強の側近でした。
そしてそんな最強の側近が最期に見せる驚愕の表情が、終盤のカタストロフィを加速させてくれたように思います。
しかし、素の熊倉さんはくまのTシャツを稽古着にする、かわいいひと。ギャップで萌え殺す気ですか?
アフターイベントで発揮された熊倉さんの数々のおちゃめな様子に、キュンキュンしっぱなしでした。夜中にアフターイベントで着る全身タイツの相談LINE送ってくるとかたまらないでしょ。その自撮り写真ください。

そして、わたしは熊倉さんのこのツイートがすごく好きです。たとえ完璧でなくても、いまの自分の最大限を出し切るということの大切さ(わたしから見たら熊倉さんは完璧超人みたいな方ですが)。
歳を重ねてもなお、高みを目指し挑み続ける姿に勇気をもらっています。

アクションモブの皆さん

殺陣は受ける人間の技術によって輝く、というような話を聞いたことがあります。
憫笑姫でのアクションモブの方々は誰もが互いをぴかぴかに光らせることのできる技術を持っているな、と感じました。
男女の別なく激しく走り、飛び、斬りあう姿。駆ける足音の響き、轟く雄叫び、響き渡る嘲笑。台詞がなくとも、存分に伝わる表現の豊かさです。
「えっ、さっきあの役をしていた方が、いまは違う役でここに!?」という驚きに溢れた場面転換。人数以上にキャストが存在するような錯覚すら覚えました。

憫笑姫は「五彩の神楽」という5カ月連続企画の第一弾目ですが、ここでエモい要素のひとつは憫笑姫でアクションモブを演じた劇団員が、続く四公演のどこかで名前のある役として活躍すること。この人の演技をもっと観てみたいな、という望みが五ヶ月を通して叶ってしまう。
箱推しを加速させるし、「憫笑姫を観たら五部作全部観たくなる」という前評判通りのシステムだと思います。

サミュエル・ランカスター・ウィリアムズ:牧田哲也さん

最後に、この方。その1であれだけ語ったのにまだ語るか!と思われるかもしれませんが、語ります。俺のブログだから好きにさせてもらうぜ!

わたしは、憫笑姫という作品を通じて、サミュエル王を演じる牧田さんを観ることができて、本当に幸せだな、と思っています。
そして、牧田さんを通じて憫笑姫という作品、そして五彩の神楽というシリーズに出会えて、本当によかったと思います。

かっこよくて、でも悪くて、でも最高に強くてかっこいい。そんな王様に出会えて情緒をめちゃくちゃにされつつも楽しい一週間でした。
重みのある太刀筋も、容赦なく蹴りぬく足技も、狂気に満ちた笑みも。全部ぜんぶ素敵で。蹴られたいし斬られたいし鷲掴みにされたいです。ええ、どMです。
何より、踊っているときのあの表情に、ミラだけでなくわたしまで人生を狂わされてしまった感があります。

千穐楽スタンディングオベーションの中できらきらと落ちてゆく涙の美しさといったら、わたしの貧相な語彙ではとても表せないもので。全人類にシアターグリーンに来て観てほしかった……。
まさにパンパンの憫笑姫。

前回のブログを書き上げた後、牧田さんのインスタライブにて、公演について、またサミュエル王という役について語られる機会がありました。
公式アカウントの方はアーカイブに残されていないし、ファンクラブアカウントの方はFC会員のみが閲覧できるものなので詳しくは説明しませんが、わたしはそれを聞いて、大半のあれそれは受け取ることができたかな、と思っています。

お話を聞いていて改めて、牧田さんはお芝居が大好きなんだなあとしみじみ思いました。
推しが生き生きと、そして真摯に演じる姿を観られる機会を作ってくださった竹村さんには感謝しかないです。
ぜひまた、壱劇屋で演じる牧田さんが観たいです!!

「余白」の美

壱劇屋のワードレス殺陣芝居において、竹村さんは「余白」を大切にしている、というようなお話をされていました。
憫笑姫でいえば、ミラの視点で進んでいくので必要以上に情報を詰め込まないように、と。

竹村さんの言葉を咀嚼していくことで、ようやくそれまで考えていた色々が腑に落ちた感じがしました。
わたしはミラの視点を通して物語を捉え、彼女に感情移入して観ていた。
だからこそ、初見ではサミュエル王についての情報はそんなに必要としなかったし、エラが王様をグーパンしてもスカッとすることができたのだと思います。
メタ的な視点で言えば彼は「憎むべき役割の人」だったから。

ただ、最終決戦で、王様の感情がどんどんあらわになっていって。戦いながら、キラキラした瞳で笑っていて。
そこでわたしは突然、彼が血の通った人間として目の前に出てきたような感覚を覚えたのです。

結果、王様のことを最初から巻き戻して考えることになった。そうしたら、考えれば考えるほど、王様がわからなくなってしまった。
神視点で書かれた台本を読んでも、なおさらに混乱した。
でも、それはわからなくて当然なんだと、いまは理解できます。
王様の来歴や思いをミラがわかるほどに詰めてしまうと、90分では終わらなくなる。それほどにひとりの人間の持つ情報量は多い。

竹村さんはだからこそ、シンプルに、を心がけていた。
でも演じる側の想いも演者の数だけあって。
ミラを中心とした全体図を描く側と、その中でひとりの人間を演じる側の駆け引きが行われて。
稽古場で行われたギリギリの足し算と引き算の結果が、劇場で観るわたしたちに差し出されたものだったのかな、と思います。

それをありのままに受け止める人もいれば、わたしのように帰り道に考えてしまう人もいて。
どんな風に捉えてもがアリなように作られている。
それこそが「余白」の持つあそび(余裕)として意図されたものなのかもしれません。
足りなすぎず、過剰すぎない。ちょうどよいバランスで過不足なく作られていると感じました。

命を賭けた殺陣と同時に、芝居が大好きな者同士のぶつかり合いを至近距離で観ていたかと思うと、改めて興奮しちゃいますね!
憫笑姫、明日また観たい。そのくらいに大好きな作品になりました。

我々はワンチームです

公演中の話をもう少し。
西分さんが、毎回カーテンコールで「感想をSNSで共有してください」とおっしゃっていたのが印象的でした。
口コミ効果を重視する劇団と自らおっしゃっていましたが、彼女のエゴサ能力、半端ないです。リツイートの速度がすごい。それを公演期間に行う気力体力もすごい。

わたしは客演キャストのファンとして劇場に足を運んだ身なので、「我々はワンチームです。我々の10の言葉よりも皆さんの1の感想が説得力を持ちます。だからぜひ、感想は心に秘めずにSNSで!」的なお話に、最初は気後れする気持ちもありました。
しかしながら、回を重ねるごとに「ああ、この劇場を満員にしたいなあ」「もっとたくさんの人に観てほしいなあ」という気持ちが湧いてくるのを感じました。

それだけのクオリティを持って上演されているし、それだけの熱量を、演者側だけでなく客席側も持てるような空気感がそこに存在していたのだと思います。
劇団員も客演のキャストもみんなみんな仲良しで、一体感があって、全員を応援したくなっちゃう感じ。役付きではない出演者の一人ひとりまで「個」として認識して推していける舞台って、意外と稀有なんじゃないかな、と思うんですよ。

以前のエントリSNSは「数」を示せる場だという風に書きましたが、壱劇屋さんはSNSの持つ力や役割をとても理解されていて、認知と集客に利用していこうという意欲の強い劇団だなあと思います。
公演前から惜しみなく稽古動画をばんばん載せてくれるし、公演中も劇中写真をばんばん載せてくれるし、公演後も未公開写真や動画をばんばん(略)。さらには、撮影可能なアフターイベントを開催することで、一人ひとりの感想が多くの人の目に留まることを意識されている。
もっとたくさんの人に届くように、そして一人でも多くの人が劇場に足を運ぶように、と常に考えながら走り続けている。

演者として稽古し、出演し、という合間でそういった活動をされることは並々ならぬ労力と気力体力がいることだろうな、と思います。
でも、常に最前線にいる人間だからこそ伝えられる熱量もあって。
そういう方たちだからこそ、応援したくなるんだろうな、と思いました。

わたしも、五彩の神楽を最後まで見届けようと思っています。

今後の予定(2022年9月8日現在)

というわけで集客において各方面での宣伝は大事!ということが改めてわかったので、牧田さんと壱劇屋さんの今後の予定を記しておこうと思います。
少しでも興味を持った方は足を運んでいただければ幸いです。

牧田哲也さん

twitter.com

  • mjbコントライブ『Re: mix! jam! blend!』(2022年11月10日 - 13日、DDD青山クロスシアター)

mjb2021.zaiko.io
夜ふかしの会・原が脚本&演出、リピートして楽しめる「多角的なコントライブ」(コメントあり) - お笑いナタリー

夜ふかしの会原慎一さんが手掛けるコントライブです。
牧田さんは昨年行われた『mix! jam! blend! assemble!』にも出演されていました。
わたしは家庭の事情で物理的に東京にいられず、配信を見ていたのですが、現地に行きたかった〜〜〜!とハンカチをギリギリ噛みしめるくらいに牧田さんってば楽しそうで。今年は無事チケットを押さえられたので、生で観られるのが今から楽しみです。
ちなみに今回はオール学生コントだそうです。学ランなのか、ブレザーなのか、はたまたセーラー服なのか?衣装も楽しみ!

  • オペラ『Rigoletto』(2022年11月23日、上野飛行船シアター)

twitter.com
コントライブの次にはオペラ。振り幅の大きさが相変わらず凄い。
牧田さんは「語り役」として出演されます。ということはイタリア語がわからなくても、オペラ初心者でも、大丈夫そうな雰囲気では?
オペラを「270°プロジェクションマッピング」で上演、という時点でわくわく感が半端ない。一体どんな公演になるのでしょう?
たった一日だけの、贅沢で貴重な体験になりそうです。

劇団壱劇屋東京支部

note.com
「劇団壱劇屋 五彩の神楽」特設ページ

  • 第二弾『賊義賊』(2022年9月21日 - 27日)
  • 第三弾『心踏音』(2022年10月19日 - 25日)
  • 第四弾『戰御史』(2022年11月23日 - 29日)
  • 第五弾『荒人神』(2022年12月21日 - 27日)

途中でも少し触れましたが、『憫笑姫』は五彩の神楽という5カ月連続企画の第一弾の作品です。
といっても続きものではなく、各作品は個別に独立して完結しているので途中から観ても大丈夫!
ただ、5作品を通して観るとより楽しめる、という仕掛けがあるそうです。

このあと一ヶ月ごとに次の企画が上演されていくので、皆様お誘い合わせのうえぜひ。
いずれも会場は池袋シアターグリーンBIG TREE THEATER。南池袋公園のすぐそば、段差がしっかりあってどこから観ても観やすい劇場です。
S席前方席は4DX並みの音と振動を、S席後方席はキャストと同じ高さの目線を、A席前方席はセンターブロックから観られない角度からの表情を、そしてA席後方席はライトを含めた全体的な演出を。どこから観ても違った角度で楽しめます。

なお、第二弾『賊義賊』・第三弾『心踏音』はチケット発売中、そして第四弾『戰御史』もまもなく壱劇屋公式FC先行が開始予定です。

『賊義賊』は『憫笑姫』とはまた違ったカラーで、ポップでキュートでホイップで、人情味溢れるじんわりあたたかい作品になる予定とか。
すでに稽古写真、稽古動画が毎日ばんばんアップされています。
ぜひ公式Twitterをチェックしてみてください!
twitter.com

言葉よりも伝わる想いをきみに/劇団壱劇屋 五彩の神楽『憫笑姫』感想その1

公演概要

note.com

物語の舞台は、⻑年に渡り近隣国との争いが絶えないとある国。 熾烈な戦いが続く国境とは違い、 その街に生きる⺠たちは平穏な日々を過ごしていた
幼い頃に母を亡くした姉妹、ミラとエラ。 姉のミラは親代わりとして、 自身の全てを懸けて妹のエラを育ててきた。
仲睦まじく暮らす姉妹はある出来事により、 揃って城へと召し上げられることに。 煌びやかな世界を夢見てやってきた二人を待ち受けていたのは、 憐れみの笑みを浮かべる貴族たち。
その中心に立つ王から剣を与えられたミラは、 有無を言わさず戦地へと送り込まれてしまうーーー

これは姉妹の物語。 姉は妹を守るため、戦旗を掲げ戦場に立つ。

https://t.pia.jp/pia/events/ichigekiya

公演日程

キャスト・スタッフ

  • 出演:西分綾香、三田麻央、牧田哲也、熊倉功、桜町たろ、竹村晋太朗、柏木明日香、黒田ひとみ、岡村圭輔、小林嵩平、丹羽愛美、長谷川桂太、日置翼、石川耀大、今中美里、古梨柚希、酒井翔悟、佐松翔、西岡亜衣、舩澤侑花
  • 作・演出・殺陣:竹村晋太朗(劇団壱劇屋)
  • 衣装デザイン:植田昇明(kasane)

公演感想

かき乱される情緒(推し定点カメラからの感想)

この夏でいちばん熱い1週間が終わりました。
休演日なしの7日間11公演、まさか自分が6日間6公演通うことになるとは思わなかった……初日の帰り道、池袋駅に着くまでの間にぴあで翌日の公演のチケット購入してコンビニで発券するとか、昼過ぎに予定が変更になったので急遽15時からの公演観るため電車に飛び乗って当日券で入るとか、初めての経験ばかりでした。
円盤化されないという事情を差し引いてもなお、これは観られるだけ、事情が許すだけ観ておかねばならぬという思いにかられた公演だったのです。

推しは、ポジションで言えば悪役でした。
見初めた娘を王妃として戦場に送り込み、自分の代わりに戦わせる、という「ちょっと何言ってるかわからない」としか言いようのない仕打ちをする王様の役です。
でも、悪役だってわかっていたはずなのに、初見では脳がそれを理解することを拒否して情緒がぐちゃぐちゃになりました。

だって!
だってなんであんなに優しい表情をするの!?

主人公である姉・ミラを召し上げる時、王・サミュエルは跪いて手を差し出すのです。姉は最初、妹が見初められたのだとばかり思うのだけど、王様はミラだけを見つめているので姉も妹もすぐに気づくのです。
彼が求めているのが、姉だということに。

その時の王様の横顔がたまらなく美しくて、そしてミラの手を取り求愛のダンスを踊る時の瞳がどうしようもなく優しくて、去り際に彼女に向ける視線がこの上なく愛おしそうで。
悪王じゃないじゃん……王子様じゃん……こんなん腰砕けるわ……とぽやぽやしてしまったのですが。

なんで次の瞬間、表情消えてるのーーー!?
貴族たちに自分の妻になるはずの女を嘲笑されても、ただ見下ろすだけの王様。
なんなん? なんなんほんと。
ここからが本番です、と言わんばかりにあらゆる手段で姉妹を傷つけ、追い込もうとしてくる王様。
無表情で、冷たい眼差し。その瞳、ハイライト出し入れ自由なんですね……。
王様が何を考えているかわからなすぎて、公演期間中、ずっと王様のことばかり考えていました。もはや恋。

側近・モールドを使ってミラの顔を斬らせ、心を折ろうとする王様。覆面をして顔を隠していたのに、妹・エラの目の前で下手人の証拠である包帯を見せつける側近。
主が性悪なら、従も性悪かよ! クソクソのクソじゃん! でも二人とも顔は最高だな!!!!!
と、その瞬間。

悔しそうに唇を歪め、下を向いていた妹が王様を見据え、拳でバコーーーーン!!!
よくやったーーーーー!!!!!

思わず心の中で喝采をあげました。
ええ、殴られたの、推しです。推しですけど、ガワは王様なので。
だから心底スカッとしてしまいました。はい、ここからわたしの情緒がおかしくなるよ!(合図)

徐々にあらわになる怒りの表情を浮かべ、王様は姉妹と、彼女らに付き従う女官たちを追わせます。
そして、追手を止めようとする騎士団長を側近と共に痛めつけます。命を下すだけでなく、王様みずからボコりに行く姿。悪すぎ。悪すぎなのに、正直、めちゃくちゃかっこいい……。
思いっきり振り抜く剣の重さ、思わず出る拳、そして、繰り返される蹴り。この蹴りが本当に、本当に、凄いんです。
「王様は足癖が悪い殺陣をします」っていう前情報はあったものの、ここまでとは思わなかった。顎を砕く勢いで蹴り上げる勢いと、殺意に満ちた表情。
だんだんと血が通ってきている感じがして、ウワァ……ってなっちゃう。

↓こちらの動画で雰囲気が伝わるかと思います。
www.instagram.com

さらに、ミラとの一騎打ち、からの師弟戦、女官たちも加わっての乱戦。
ものすごい運動量でしんどいはずなのに、王様ってばめちゃくちゃ楽しそうなんです。瞳がキラキラしてるの。命を削り合う戦いを通して、愉悦を感じているかのよう。
ニヤァ……って笑うのがまたラスボス戦に相応しすぎて客席のわたしは毎回瀕死になりました。

ミラやエラたちを応援したいわたし
vs
王様の感情をわかりたいわたし
vs
推しの鬼気迫るかっこよさに震えているわたし

牧田哲也オタクのMAGIシステムは焼き切れ寸前です。でもまだ死ねない。

騎士団長が命を投げ打って全身で王様の剣を止め、抜けないよう押さえつけている間に、ミラが団長の剣を拾い、王様を斬る。
週刊少年ジャンプだったら見開きセンターカラーのこのシーン。
ほんの数秒のことなのに、スローモーションのように鮮やかな記憶として残っています。
噴き上がる血飛沫が見えるんですよ。そして、返り血を浴びたミラが壮絶なまでの美しさを持って一人立っている。

すでに事切れている団長。倒れて血を流す王様。上下する腹の動きに、戦いの激しさを思いました。
幼な子のようにわんわん泣いて団長の死を悼むミラ。ああ、やっと一人の女の子として思い切り泣けたんだね……とこちらまで泣いてしまう。そう、この瞬間、王よりミラを思って泣くんですよね、わたしは。推し(のガワ)が死んでるのに。
だから本当に情緒がぐっちゃぐちゃで、毎回めちゃくちゃ体力気力を消耗しました。

刀ステ无伝の時も毎回クライマックスで泣いて、それはそれでしんどかったのですが、あくまでその時は「迎えなければならなかった結末」に泣いていたんですよね。
でも、憫笑姫では「迎えた結末によって与えられた解放」に泣いてしまったんです。
この違い、伝わるでしょうか……?

なんていう脚本と演出をしてくれるんですか、竹村さん。
そして、なんという芝居をしてくれるんですか、牧田さん。
こんなん、チケット増やすしかないでしょ……。


ここからは、オタクのうわ言(ここからも?)なんですけど、牧田哲也さんという方は、演じる上での説得力を持たせるためにたくさんのことを思索される方だと思っています。
『王様はただ立っているだけで怖い』と言われているけれど、その「だけ」は「だけ」じゃなくて。サミュエル・ランカスター・ウィリアムズならこの時どう立つか、ということを考え抜いた上での結果なんですよね。

自分は憑依型の役者ではなく、そこからいちばんかけ離れたところで常に考えながら演じている、というニュアンスのことを以前お話しされていて。
だから劇中で王様が笑うのも、王様を演じている牧田さんが笑っているのではなく、王様ならここで笑うだろうという解釈のもと笑っているのだと思います。
『スワンキング』の時も、「この時のルッツはこういう考えでこう演じていた」というのを後から振り返っていらしたのですが(公式Instagramの投稿参照)、サミュエル王もかなり練って作り上げられたのだと思うと、その意図を読み解きたくてぐるぐる考え続けてしまったのです。結果、ファンフィクションまで書いてしまう始末です…沼が深い。

いずれ牧田さんの口から語っていただける日が来るのではないかと期待していますが、自分がどこまで受け取れることができていたのか、非常に気になります。

ワードレス殺陣芝居というかたち

というのも、憫笑姫は「ワードレス殺陣芝居」なので、セリフは一切なし。叫びや泣き声、笑い声のみの芝居なのです。
セリフがないということは、どんなやりとりが交わされていたのか、そしてそこにどんな思いが込められていたのかは観ている側の想像に委ねられているということでもあります。

わたしも壱劇屋さんの公演を観るのはこれが初めてだったので、ちゃんとついていけるか心配だったのですが、開始数分で「わかる……わかるぞ!」となりました。
例えるならば、脳内で字幕が出されている感覚です。
なので、物語の大筋は初見で把握することができ、ストレスなく観ることができました。
殺陣芝居と銘打っている通り、殺陣も芝居も偏りなく練り上げられています。

けれど。けれど王様のことだけが、いつまで経ってもはっきりと「これだ!」とわからなかった。
それは、単純な「悪」としては演じまいという牧田さんの思いもあったのではないかな、と勝手に想像しています。
戯れでも、享楽のためでもなく。もっと深く、昏く、強い感情を底に抱きながら姉妹たちを観察しているようにわたしには見えたので。


『憫笑姫』は「五彩の神楽」という五部作の一作目として、5年前に初演されています。その時、王を演じたのは末満健一さんでした。そう、刀ステの末満さんです。
竹村さんが脚本・演出された憫笑姫に末満さんが出演し。末満さんが脚本・演出された刀ステ无伝で竹村さんと牧田さん&熊倉さんが共演し。そして、今回の憫笑姫再演へと繋がっていったのです。エモい。

わたしはまだ初演を観ていないのですが、初演と再演の両方を観られた方々の感想を読む限り、かなりお二人の王様の演じ方は違うようでした。
同じ脚本でも、脚演側の目線も入れていた末満さんと、役者としての解釈を究めた牧田さん。違う経験やアプローチを重ねてきたお二人ですから、違って当たり前なのだと思います。あえて違う道を行こうという力みなどはなく、自然な結果だったのでしょう。

このあと初演を観るつもりでいますが、同じようでまったく違う物語を楽しめることを幸せに思います。
そして、竹村さんが「ワードレスという形式だからこそ、みんなそれぞれの余白を楽しめるように」という配慮をしてくださっていることを、嬉しく思います。

もう少し続きます

あまりにも王様について語りすぎ……他の出演者の方についても色々話したいことがあるので分割します!
次の更新はキャストごとの感想を中心にお送りする予定です。