何かが終わって始まる／柿喰う客 新人単独公演『初体験』感想

公演概要

kaki-kuu-kyaku.com

華々しいデビュー直前に謎の失踪を遂げたメンズアイドル！
事件の真相を探る仲間たちにおぞましい顛末が待ち受ける！？
演劇界の風雲児「柿喰う客」の最新作は新人７名による大乱闘！
「初モノ」な嵐が吹き荒れるトラブル・サバイバル・カーニバル！！

初体験│柿喰う客

公演日程

• 全電通ホール：2022年11月5日（土）

キャスト・スタッフ

• 出演：蓮井佑麻、中嶋海央、佐々木穂高、田中廉、山中啓伍、浦谷賢充、沖育美
• 作・演出：中屋敷法仁

公演感想

はつたいけん

柿喰う客2021年加入の新メンバー7人による、一日限り、一公演限りの単独公演『初体験』。
結論から言うと、一公演限りではもったいなさすぎる濃密さエモさてんこもり。
けれど、一公演限りだからこそ、このきらめきが尊いのかもしれない、とも思えて。配信があっても、現地に行って本当に良かった。

『この作品はフィクションです。実在する人物・団体・事件とは一切関係ありません』
おなじみのこの定型文から始まったステージは、最初からトップギア。
リフレインし、重なる声。その不穏さが、たまらない。
『幕が降りれば元通り、何も起きない80分』『君には一切関係ない』――突き放すような言葉に、それでも食らいついていく。

始まりは、10月5日。
芸能事務所「KKKプロモーション」のマネージャーから、有名クリエイター・イケミズケンへの一本の電話。
それは、これからデビューするアイドルグループに関する依頼で。
よくある話のように見えて、そうでないのは裏事情。20名でデビューするはずが、そのうちの1名が行方不明だというのだ。

失踪か、誘拐か、はたまた反抗期の家出か。
他の19名も、彼の行く先は知らない、わからない。

ハツイケンタ。通称「ケンちゃん」。
美少年でもなければ飛び抜けた才能があるわけでもない、真面目がとりえのアイドル候補生。

彼を溺愛する姉、違約金を迫る社長（会長と呼べ）、彼を気遣うマネージャー、子ども食堂兼和食屋の店員男性、アイドル候補生・コウジ。
それぞれの思惑が複雑に絡み合っていく、80分。
話が進めば進むほどに、時系列と視点とがぐるぐると入れ替わって、自分がいまどこに立っているかもわからなくなって。
その不安定でぐらぐらした心持ちもまた、演出の一環によるものだと思えば、中屋敷さんの手のひらってどれだけ広いんだろうと思ったりなんかして。

何度でも、何度でも

正直な話、現地での観劇一回ではその世界観や構造を完全には捉えきれなかった。
それは意図的なものではないか、という思いもありつつアーカイブ配信を観た。
それでもまだ、わからないところもある。辻褄を合わせきれないところも。
でもおそらく、整合性を求めすぎてはいけない作品なのだと思う、性質的に。

そして、完全にわからなかったとしても、心を震わすことはできる。
そういう発見を得た作品でもあった。

ケンちゃんがデミグラスソースハンバーグを「食べたことないけど好きなんだ」と言うシーン。
その言葉だけで、彼が置かれた状況がぶわっと浮かんでくる。感じることができる。

救われてほしい。
帰る場所が、もうひとつあればいい。
祈りにも似た思いが芽生え始める頃には、わたしも同じ夢を追いかけていた。

依存しあう二者関係の多重構造。
ケンちゃんと姉、ケンちゃんと男、男とコーチ、ケンちゃんとマネージャー。
誰が救える？
誰を止める？

更に速まるセリフの応酬、迎えたかに見えたクライマックス。
けれど戻るところはいつも一つ。
10月5日の電話から。

けいけんずみ

ここから終幕に向かうシーンは、エモさの波状攻撃。
配信ではさらに「そういうことだったのか！」という気づきを得て倍率ドン、さらにドン。

縋る腕、突き放す言葉、ねだる激情。
何度も何度もリフレイン。
あなたしかいないと思うその熱は、幼さの証。
それでも伸ばす腕は、諦めたくない想いの結晶。

息もできないほど激しいやりとりに、どんどんと露わになっていく互いの感情。
叫ぶように、泣くように、言葉を叩きつけ合う。プライドを投げ捨て、魂で殴り合う。
それこそが、たどり着きたい場所だった。
消費される物語も、叶わない夢も、悔いばかり残る過去も、ぜんぶ抱きしめて。

ここから先は今からでも配信で実際に観てほしいので、いでよ「続きを読む」記法！
アーカイブ配信は2023年1月22日（日）23:59までなので、ぜひぜひ！→チケットぴあ
※ラストシーンに関する内容になります。未見の方はご注意ください。

2022年観劇記録

• 1月
  • 歌劇『桜蘭高校ホスト部』@銀河劇場
• 2月
  • 『あんさんぶるスターズ！THE STAGE』-Track to Miracle- @日本青年館ホール
• 4月
  • 舞台『刀剣乱舞』綺伝 いくさ世の徒花 @明治座
• 5月
  • ミュージカル「るろうに剣心 京都編」 @IHIステージアラウンド東京
• 6月
  • ミュージカル「スワンキング」 @東京国際フォーラムホールC ×3公演
• 7月
  • 劇団『ドラマティカ』ACT2／Phantom and Invisible Resonance @ステラボール
  • ミュージカル「スワンキング」 @刈谷市総合センター　大ホール×2公演
• 8月
  • 五彩の神楽『憫笑姫』 ×6公演 @シアターグリーン
• 9月
  • 五彩の神楽『賊義賊』 ×2公演 @シアターグリーン
• 10月
  • 『あんさんぶるスターズ！THE STAGE』-Witness of Miracle- @ステラボール
  • 五彩の神楽『心踏音』 ×2公演 @シアターグリーン
  • 舞台「COLOR CROW-神緑之翼-」@紀伊國屋サザンシアター
• 11月
  • 初体験 @全電通ホール
  • mjbコントライブ「Re:mix!jam!blend!」@DDD青山クロスシアター
  • エリザベート @帝国劇場
  • Rigoletto @飛行船シアター
  • 五彩の神楽『戰御史』 ×3公演 @シアターグリーン
• 12月
  • 歌劇『桜蘭高校ホスト部』f @銀河劇場
  • 五彩の神楽『荒人神』 ×4公演 @シアターグリーン
  • 禁猟区 ×7公演 @本多劇場

全41公演でした。
12月後半がダントツにおかしかったです。
12/22〜30で全11公演！
のちほど、各感想とリンクを繋げる予定。