ゆみはりの

弓張の月にはずれて見し影の やさしかりしはいつか忘れん

反転する世界に彼は/柿喰う客 仙台遠征公演2021『恋人としては無理』配信感想

公演概要

kaki-kuu-kyaku.com

劇団初の海外公演&国内ツアーを成功させた名作が堂々リバイバル
「神の子」と呼ばれる男とその弟子たちをシニカルに描く恋愛群像劇!

恋人としては無理│柿喰う客

公演日程

  • 宮城野区文化センター パトナシアター:2021年12月18日(土)・19日(日)

キャスト・スタッフ

公演感想

※配信当時に書いた感想メモを元に再構成しています。記憶違いがあったらご容赦ください。

言葉のシャワー

開幕から降り注ぐ、大量の台詞。独特のリズムを保ちながらぐるぐると目まぐるしく変わる役どころ。舞台装置はなく、衣装もおそろいのピンクのパーカーのみ。
わたしが今までに経験したことのないテイストで、序盤はひたすらに圧倒されっぱなしでした。

だってまさか、「ポケモンのように鳴くロバ」が次の瞬間、ぺとろ(ペトロ/イエスの一番弟子)に変わるなんて思わないでしょ?しかもこのぺとろ、女性なんですよ。女性なんですけど、演じてるのは男性(加藤ひろたかさん)なんです。
な…何を言ってるのかわからねーと思うが、おれも何が始まったのかわからなかった……とポルナレフ化しちゃう勢い。頭がどうにかなりそうになりながら、必死に喰らいついていくしかなかったのです。

突然のシャンコ

言葉の応酬にようやく慣れた頃に、物語の全体図がぼんやりと見えて来るようになりました。
神の子、いえす君がエルサレムに入ったとか入らないとか。それってつまり、聖書のあのあたり。子どもの頃に読んだのをうっすらと覚えてる。
なるほどなるほど、と思っていたらなぜか舞台はホストクラブへ。その名もホストクラブ「エルサレム」。
ふぃりぽちゃん(フィリポ)がドンペリ入れたものだから、ホストちゃんたちがシャンパンコール。ゆだりん(ユダ)のラップにも面食らったけど、まさかシャンコまで聴けるとは夢にも思わず。
作り出される不思議なグルーヴに、だんだんと心地よささえ覚えるようになってきました。

揺らぐ世界

十二使徒のみなさん、みんながみんな、いえす君へ巨大感情を持っている。でもそれは信仰とはまた違ったものだったりして。
ぺとろとゆだりんと、よはねっち(ヨハネ)と。周囲を巻き込んでのドロドロのメロドラマが始まっちゃう。

いえす君は、平等な愛で、誰かを特別になんかしないつもりで。
でも誰も彼も平等って、誰のことも愛してないのと何が違うのでしょう?
そこに気づいてしまったら、ゆだりんが銀貨30枚でちゅーしちゃうのも仕方ないのかもしれません。口づけのあとの笑顔、ぞっとするくらい美しくて、チャーミングだった。

永遠に奪われるいえす君。
殉教の道へと向かう使徒たち。
物語はクライマックスへ…と思いきや。

……ねえここで、ダ・ヴィンチトム・ハンクスが出てくるなんて誰が想像しました??
わたし今、タイトルの意味を悟り始めたところなんですけど??
まさかのメタ視点。シュールで不条理。けれどなんだか、嫌いじゃない。『ダ・ヴィンチコード』、実は見たことないけど。

ドロドロとエモエモのあいだに

トム・ハンクスが発した「マグダラのマリア」という衝撃ワードの波紋で、さらに使徒たちの関係はドロドロのドロに。

それまで明朗快活・頼れるお兄さんキャラだと思っていたやっこさん(大ヤコブ)が、静かに、そして一気に怖い人になってるんですけど!?
ねえ、あの爽やかで穏やかに見えた笑顔、実はめちゃくちゃ闇だったってワケ!?
こっわ。マジこっわ。
妹(よはねっち)を愛しすぎてるじゃん。少コミの世界じゃん。
明るい狂気をこんなにも上手く演じる牧田哲也さん、推せる。あ、もう推してた。

いえす君は復活したけれど、だからといって元通りの世界になるわけもなく。
見ている方としては世界が反転したかのような感覚。

そして突然に終わる物語。消える光。
放り出された感覚がたまらなく不安で、ざわざわして。感情をかき乱されたまま、しばらく立ち直れませんでした。

いやぁ、凄いものを見た。
配信ですらこんなに消耗してるのに、現地組の疲弊はいかばかりか。
そしてこの作品、フランスで初演というのがまた凄い。キリスト教圏でやる勇気よ。

いえす君ってなんだったの?

十二使徒の皆さんが、口々にいえす君とのエピソードを披露して。いえす君への思いをぶちまけて。
けれどいえす君は最後まで出てこなくて。
結局、彼らにとってのいえす君って、信仰って、なんだったんだろう?そんな風に考えてはみたけれど。

ぶっちゃけ、キリストサーのサークルクラッシャーじゃん!って思っちゃいました、わたし。
だから、やっぱり「恋人としては無理」。

それでもそこには確かに「でっけえLOVE」が存在していて。
はちゃめちゃで、けれどめちゃくちゃに切ない、溢れる情熱の物語でした。

余談

2008年の名残り

初演時の時事ネタもそのままバリバリに織り込まれていて、懐かしさにニヤニヤしてしまいました。
今の20代は島倉千代子とかみのもんたとか、どれだけわかるのかしら?ぴかー。

アリすぎる

公演前に行われた柿喰う客のTwitter企画。ハッシュタグ「#恋人としてはアリ」で出演者たちの「恋人っぽいポートレート」投稿されていたのですが、この企画が控えめに言って最高でした。
これらの写真は現地会場で展示され、配信特典映像でも紹介されていました。
この映像も最高に良かったので、円盤化してほしいと思っています。何度でもキュンしたい。

ちなみにわたしはこの写真がツボすぎました。ぜひ画像を最大化して見ていただきたいと思います。
いいねってなんで連打できないの!?